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フーガ(遁走曲)Ⅳ   [『ベルサイユのばら』Prequel]

最終話です!
どうでしたか?Arthur_Wellesley_-_Lawrence_1814-15.jpg


風はそれなりにまだ冷たかったけれど、復活祭も過ぎ、春らしく柔らかい日差しの日だった。
シャン・ド・マルスの練兵場の周囲には、特設された見物席ができていた。美しく着飾った貴婦人や貴紳らがこぞって詰めかけている。
会場の見物席の真ん中の一段高く組まれた場所は、赤絹に房飾りの付いた幕で荘厳され、国王陛下と公式寵姫であるデュ・バリー夫人が臨席されていた。陛下は満足そうに、華やかに盛装し騎乗していた生徒たちを眺めていらした。上機嫌で傍らに座る寵姫の扇の下で、なにやらひそひそと会話しておられるようだった。
陛下の席のそばには陸軍幹部の席も用意されていた。そこには旦那さまや奥さまが腰をおかけになっているのが、こちらからでも判った。
 生徒たちは、国王陛下の趣味に合わせて今日のために用意された、色鮮やかで金モールの装飾がふんだんに施された胸甲騎兵の装束、―一方は緋色、もう一方は濃い青色―に身を固めていた。浮彫の金の装飾、房飾りがついたヘルメットをかぶり、軍衣の上にやはり金色の装飾の胸当てを装着し、サッシュをたすき掛けし、腰には軍刀を帯びていた。両軍ともに模擬槍を持っていた。二百人の金モールが日差しを浴びて、シャン・ド・マルスのコートはきらきらと眩しいくらい輝いていた。
戦いが始まろうとしていた。
楽師たちが一斉にトランペットでファンファーレを吹いた。それまでざわざわしていた周囲は、潮が引いたように静まりかえった。
練兵場の真ん中に、男がフランス王家の紋章であるフラダリが施されている旗を持って立ち、みなに大きな声で告げた。
「パリ陸軍士官学校の諸君。ただいまより、国王陛下の御前で模擬戦を行う。われわれは陛下の臣下として、この身を陛下とわがフランスに捧げ、この国を護りぬくことをこの場で誓う。陛下のご臨席を賜った栄誉を祝して、一同国王ルイ十五陛下を称え、祝砲せよ!」
 大空に向かって二百人の空砲が、いっせいにダーンという音を放った。
国王陛下、ルイ十五世は厳かに立ち上がられると、みなに向かって手を挙げられた。同じ場に介している人間は男も女も国王に向かって低頭し、騎兵たちは額に手をかざし、一斉に敬礼した。
紅軍と蒼軍の敵と味方に分かれた生徒たち騎兵は、百人ずつ。それぞれがすでに騎乗し、方陣を固め、お互いに自分たちの陣の中で敵に向かって対峙し、戦いの火蓋が落とされるのをじりじりして待っていた。
「これより前哨戦を行う!」
 さきほどの男が続いて叫んだ。
「両軍より、さきがけとして中央へ十騎出馬せしめよ!」
 それを受けて緋色の装束の大将が、抜き身にしたサーベルを天に向けて凛と叫んだ。
「わが軍より選ばれし十騎、中央へ進め!」
 紅軍の総大将はオスカルだった。この日の総大将であるオスカルは、他の騎兵たちのように胸に甲を着けていなかった。一軍の将にふさわしく東欧のユサールのように金モールが張り巡らされたきらびやかな肋骨飾りの黒地の上着の左肩に、さらに黒テンで縁取りされ、ドルマン飾りの華やかな緋色プリスをはすかいにまとっていた。
 対して蒼軍の総大将は、思った通り、ショーソンだった。彼も色は違えど、オスカルと同じ総大将の装束を着、こちらも白地の肋骨飾りの上着の上に白テンで縁取りされたロイヤルブルーのプリスを着込んでいた。ショーソンは実に男らしい巨漢で武官としての風格もあり、こういったきらびやかな軍服をそれなりに着こなして、オスカルとはまた違う精彩を放っていた。そして自分の威信にかけてこの間の惨めな決闘の雪辱を晴らすべく、捲土重来のためこの場に立っていた。
「よし! おまえたち先鋒は、思う存分力をふるえ! あの鼻もちならないうらなりのジャルジェの軍など何ほどのものでもない! 尊大なやつらの鼻を明かしてやる絶好の機会だ! 勝機はわれらにある! やつらの前に神の鉄槌を下すのだ! わかったか!」
ショーソンは太くて低い声で、さかんに檄を飛ばしていた。
「おおおっ!」
 蒼軍は鬨の声をあげた。
 それを遠目ながら不敵な笑みを浮かべて、オスカルは見ていた。
「ふふっ、戦う前から熱いな…」
 赤と青の騎兵は十騎ずつ、対峙した。
 中央の男は、旗を振った。
「始め!」
 ショーソンの十騎は、すべて重装して力に訴えるらしい。端から中央突破の構えらしく、横に一列になって突進してきた。
「やはりそうきたか…。ショーソンのやつらしいな」
 オスカルはひとりごちた。
「しかしな、そんな戦い方はもはや古いぞ、ショーソン」
 紅軍はかねてオスカルが指示していた通り、最初対峙していた横列から変形して、両端から縦二列になり、ショーソンの横列を回り込むように背後へ回り、後ろから突いた。蒼軍はバタバタと何人かが馬から突き落とされていく。
この模擬戦のルールは、馬から突き落とされたものは負け、練兵場から去らなくてはならない。そして最後はお互い敵陣のゴールを突破して、敵の軍旗を奪ったものが勝ちとなる。
「戦闘の原則は、主動、機動、集中、奇襲だからな。その根幹を成すのはいずれにせよ、速さだ」
 オスカルはショーソンの先鋒の人間が落馬するのを見て、ほくそ笑みながらつぶやいた。
「とはいえ、まだ戦いは始まったばかりだからな。とくとお手並み拝見といこうじゃないか…」
 オスカルの冷徹なまなざしは強い光を放っていた。

 しばらく前から、士官学校内では不穏な噂が飛び交っていた。それは表立っては口にはされなかったが、ひそひそと静かに生徒たちの間に伝搬していた。しかし噂というものは、一度俎上されてしまったら打つ手がない。
「あのオスカル・フランソワだがな」
「ああ、ジャルジェか。あの切れるように鋭いやつだろう? しかも、女と見紛うほどの、男にしておくにはもったいない美形だ」
「そう、まさにおれの言いたかったことはそこだよ!」
「えっ?」
「実はな、噂ではあいつは男じゃないってことらしいんだな」
「え? まさか? じゃあ、男じゃないってことは、当然女ってことか?」
「どうもそうらしい。ヴェルサイユでは、あいつのことはもはや公然の秘密であってだな、誰も知らないものはいないということらしいぜ」
「ええっ? 確かにあいつは声変わりもしてないし、ひげも生えてないよなぁ。まあ、たしかに男にしては線が細とは思っていたが…。だが信じられない。頭脳明晰で、あの決断力だぜ」
「だから、驚きだ、というんだ」
「しかしだ。もし女だったんなら、おれはちょっと嫌かもな、女の下で働くのは。男の沽券に係る問題だ」
「とはいえ、おまえ、こんど模擬戦でオスカル・フランソワの指揮する紅軍なんだろ?」
「そうだな…」
 噂はタレイランあたりがばらまいたのかもしれない。あれだけ巧妙に男としてふるまっていたオスカルだったが、上手の手からも水は漏れてしまうものだ。おれはオスカルにそのことを告げた。
「知れてしまったものは仕方がない。が、この模擬戦は陛下もご臨席される。戦いは実際やってみなければ最後までその勝敗は判らないものだが、やはりやるからには、お互いに死力を尽くして戦いたい。だが始まる前から、実力も発揮できずに無様な姿を陛下にお見せするのは、臣下としてあるまじき姿だ。そんなことは許されない」
 オスカルはきっぱりと言い切った。
「じゃあどうする、オスカル?」
「アンドレ、どうするっておまえ、そんなこと、どうもこうもないだろう?」
 オスカルは呆れたような顔をしておれを見た。
「えっ?」
「他の人間に、正直に、わたしは女です、と言って矛を収めてもらえるわけがないだろう? そんなことで収まるくらいなら、わたしも苦労はしない」
「ここはどうでも、男で通すしかあるまい。つまりな、ハッタリをかますんだ。否定するしか道はない。ひとつの軍の将となるからには、周囲を欺くことも時には必要だからな」
「だがオスカル。もし…」
 オスカルはおれをギロッと上目遣いに睨んだ。
「アンドレ、もし、なんだ? もし負けたら? もしわたしが女だとバレたら? 怯懦はもっとも武人の嫌うところだ。武人は戦いを前にして、決して負けることを考えてはならん。もし女だとバレて、あいつらが決してわたしを赦さないとすれば、それはもう、肚を括るしかないだろう? そのときは制裁を受け入れる。はん、戦いには昔から凌辱と略奪は付きものだ。あいつらの気が済むまで、抱かれてやるしかあるまいよ、わかったか!」
 怒気を含んだオスカルの放言は、どこか鬼気迫るものがあった。

 おれたちのこんなやりとりからほどなく、下級生が模擬戦の作戦を立てる場で、紅軍全員を前にしてオスカルに質問した。
「ジャルジェ上級生、あなたについて不穏な噂を耳にしたのですが…」
「ほう、どんな? 言ってみろ」
 集まった人間は、誰しも噂の真相を知りたくてうずうずしていた。固唾を飲んでオスカルの一挙一動に女と思われるふしはないかと観察している中、あいつは顔色ひとつ変えず、下級生に質した。
「う、噂ではあなたが、実は女性なのではないかと…」
 下級生は非常に言いにくそうに、もじもじしながら言った。
「ほう、これは面白いな。わたしが女だと? ブラゾー君、君はどう思っているんだ?」
「わかりません…。でもここで、その疑いを晴らして頂かないと、戦いの士気が下がってしまいます」
「言うに事を欠いて、わからんだと? なるほどな。君はわたしに対して、どれだけ失敬なことをいっているか自覚しているのか?」
「は…い」
「じゃあ君たちは、わたしが万にひとつでも女である可能性を捨てきれないわけだな…」
「いえ…いや、…は…い」
「よろしい、判った。ではここでわたしが、君たちの疑いをはっきりと晴らしてやろう!」
オスカルは目を上げ、みなに向かって宣言した。
「いいか、よく聞け。言うまでもないことだが、宣言する! わたしは男だ!」
 オスカルは鋭い目であたりを威圧するように睥睨した。怒髪天を衝くようなあいつの迫力に、みなたじたじとなった。
「わたしが女だと? くくっ、笑わせる。ふざけるな! わたしの教籍簿を調べてみろ! わたしはジャルジェ家の長男と記されているわ! ここにわたしは誓う。神にかけてわたしは男だ。みんな冷静になってよく考えてみろ! 何人たりとも、模擬戦の前にこんな下らぬ噂で軍紀を乱すことは許さんぞ!」
いつもは寡黙なオスカルが、いつになく饒舌になって、皆の前で自分が侮辱されたことを激怒していた。そして少し茶目っ気を出してこう言い添えた。
「おおかた敵軍の下らぬ一派が、われわれに一杯喰わそうと、こんな下卑たマネをしでかしたのではないか? あはははは」
 その場が一斉にわっと沸いた。
 だがおれは、オスカルの傍で複雑な思いでそれを聞いていたんだ。

 オスカルは着々と模擬戦の準備を進めていた。模擬戦は学校のカリキュラム外の行事であり、また教官たちも管轄外の分野なので、あいつは放課後、ほとんどその準備をひとりでやっていた。戦術はもちろんのこと、事務的な手続きも人に頼むこともなく、当たり前のように淡々とこなした。もともと小さいころから英才教育を施されてきた人間の常として、非常に勤勉なのだ。
それに土台があいつはもともとがしゃべる人間でなく、公的な場では特に必要なとき以外自分から話さない。話すとなれば、要点のみを的確に抑え、手短にしゃべった。その代わり人の言うことは、それがたとえ要領が得ない話でも、相手の言わんとしているところを理解しようとする辛抱強さがあった。
そしてあいつにはなにより独特の勘が働いた。というのもこういうタイプの人間は本来、偶然や時の運を当てにしない。あらかじめ事前に想定しうる限りの、ありとあらゆる事故に対して、善後策を何重にも考えていた。そんな用意周到なところが、人をして勘がいいと思わせるんだろうな。
あいつはいつも堂々としてたじろがず、誰に対しても寛大な態度で臨むので、先輩には煙たがられたが、意外と後輩には、頼れる兄貴的存在として慕われはじめていた。
オスカルは模擬戦の作戦会議を開くため、自分の部下になる百人を招集した。
「まずわが紅軍百人の構成だが、そうだな、四十人を重装騎兵として、わが陣地防衛する。陣地防衛の司令官は、アルノー、君にお願いする。どうせショーソンは力で押してくるだろうからな。一応こちらもパワーはそれなりに備えたほうがいい。そして、四十人を攻撃の要とし、あと二十人を遊撃に回す。攻撃の司令官はバラティエ、君だ。そして遊撃の司令官はベルトン。君は騎兵科の生徒の中でも、抜群に速く走ることができるからな。そして私が倒れたときのことを考慮して、副官はクロード・ランベール、あなたに願いしよう。あと、アルノー、バラティエ、ベルトンも万が一、自分が倒れたときのことを考慮し、サブのリーダーを各自選んでおいてくれ。ここまではみんないいか?」
「ああ、了解した」
「攻撃なら任せておけ!」
 みな快諾した。それぞれの反応を冷静に伺いながら、オスカルは話を進めた。
「今度の模擬戦は、人数も同数、潜在的な力もまず同等とみていいだろう。それに実践と違い、地形に対する強みや不利もない。だから勝負するとすれば、どのように戦うか、その作戦にのみ差がでるということだ」
 オスカルは全軍を前にして、自分の考えを述べた。
「この試合は長丁場だ。最初は全軍入り乱れて戦うことになるだろう。さっきも言った通り、向こうは力で対抗してくるはずだ。くれぐれも挑発に乗ってはいかん。そこが敵の狙い目なのだ。わかるか? われわれはなるべく、体力を温存して、無駄なことをしない。いいか、この戦いは、昔のような騎士道精神に基づいた一騎打ちとは全く別の次元のものだ。従って個々の名誉も不名誉もない。私怨を理由に深追いは禁物だ。いいか、大事なのは効率よく敵を倒していくことだ」
 オスカルは力より速さで勝負することが好きだった。
「わたしが得意とするのは、速さを旨とした奇襲だ。まずわれわれは、味方の重装騎兵を盾にしてその背後につき、いかに早く敵の背後や側面に回り込み、敵のふいをついて奇襲をかけて攪乱するかだ。敵は必ず重装騎兵で壁をつくり、われわれの攻撃を抑えようとするだろう。だからそれを見越して、ぎりぎりまで敵を誘導し、その隊形を崩すことが肝心なのだ。わかるか? だから結構訓練はきついぞ、みな心してくれ」
 オスカルのことばに、一同は一斉にうなずいた。
「諸君、とりあえず重装騎兵を除いて、騎乗する馬は、身体の大きさよりも脚が早いほうがありがたい。理想をいえばアラブ馬だ。とにかく俊足だから容易に敵を振り切れる。自分が騎乗する馬について相談したいものがいれば、後で申し出てくれ」
 紅軍の戦士たちは信頼できる智将のオスカルの攻略を、熱心に耳を傾けていた。
それから試合の日まで、毎日過酷な訓練が続いた。すこしでもぼやっとしている人間がいると、とたんに容赦ないオスカルの怒号が辺りに響いた。
「優顔のくせに、ありゃ鬼だな…!」
「誰だ、女だなんていったヤツは。あんなおっかねぇ女なんかいねぇよ」
 オスカルの激しいしごきを体験して、もはや誰もあいつを女だと疑うヤツはいなくなった。
「だな」
 オスカルは耳ざとく、しゃべっていた人間を見逃さなかった。
「そこ! おまえらだ! なにをくっちゃべっているんだ! 弛んでいるぞ、気を抜くな!」
「うへぇ、す、すいません!」
 怒鳴られた生徒たちは、血相を変えて自分のポジションに戻っていった。
「よし! これが終わったら、散騎の状態から集中して、二列縦隊になり、斜め右方向へ前進する。敵に悟られる前にすばやく機動し、攪乱して殲滅させるのだ。主動たる騎兵は速さがなにより肝心だ! なのに、おまえたちは遅い! さあ、もう一度やるぞ! 全員配置につけ!」
 オスカルの檄が飛んだ。

両軍は一進一退で、なかなか勝敗がつかなかったが、徐々に重い装備で戦場に臨んだ蒼軍のほうに、疲れが見えてきた。
 オスカルは味方の軍勢を鼓舞した。
「そら、敵に疲れが見え始めたぞ、遊撃隊、奇襲へ回れ。敵の背後につけ!」
 ベルトン率いる遊撃隊は軽い足回りを生かして、縦横無尽に敵の背後に廻って攻め落としてきた。こうしてしばらくは紅軍の快進撃が続いた。しかしショーソン率いる蒼軍も、このままむざむざと引き下がらなかなかった。渾身の力で反撃してくる。
 一方ショーソンは、劣勢気味の味方の軍勢に檄を飛ばした。
「勝負はまだまだこれからだ! 敵の遊撃隊はかならずわれわれの背後を突いてくる。しかしその前に必ず殲滅させろ、侮れないのは遊撃隊だけだ! まず遊撃隊を壊滅させるのだ! 敵を容赦なく叩きのめせ!」
 なんと驚いたことに大将のショーソン自らが先頭に立って、紅軍を迎撃してきた。
 ショーソン率いる重装騎兵のあまりの勢いに紅軍の士気が乱れた。ショーソンは獅子奮迅の体で、怯んだ紅軍の将であるベントンを、馬から叩き落した。敵は気勢を上げた。ここまでくるのに、ショーソンもショーソンなりに努力してきたに違いない。
 オスカルはそれを見て、うなった。
「ショーソンめ、なかなかやるな。しかしこのままやられているわたしではない。目にものを見せてくれる」
 オスカルは手を挙げて、周りのものに告げた。
「今からわたしが、倒されたベントンの代わりに遊撃隊を率いる。紅軍の陣の守りは、アルノーおまえに任せる。クロード、わたしについて来い!」
 それを聞いてアルノーは反論した。
「総大将自らが出撃ですか? それではいざというとき、指令を出す人間がいなくなります」
「今がまさに、そのいざというときだろう、違うか、アルノー? 今ここを食い止めなければ遊撃隊は壊滅だ。遊撃隊が壊滅してしまっては総大将が残っても意味がない」
 オスカルは言い放った。
「さあっ! 出撃するぞ!」
 黒いアラブ馬に乗ったオスカルは矢のように走り、味方の遊撃隊のほうへ突っ込んで行った。
「さあ、諸君。今こそ士気を高く持て! 今までの訓練を思い出せ。われわれはきっと勝つ! さあ、わたしに続け!」
 遊撃隊はオスカルが先頭に立ったことで、味方の士気もぐっと高まり雰囲気も明るくなった。オスカルは敵の騎兵の背後を突き、つぎつぎと襲って馬から突き落としていく。走りながら、ものすごい速度で隊形を変形させていくので、敵はあっという間に攪乱させられてしまっていた。
「ふふ、どうだ? ショーソン。おまえはわたしを見切れるか?」
 オスカルはひとりごちた。
 そしてとうとうオスカルの勝機が訪れたように思えた。敵の陣地の軍旗のまわりのは二、三騎ほどしかいない。オスカルは味方に命令した。
「集中し、一列縦隊! 続け!」
 オスカルは中央から迂回するように斜め左方向へ向かって行った。そこに向こうから対峙する形でショーソンが向かってきた。
「ショーソンのやつ、一対一でわたしと真っ向から勝負するつもりか? ふっ、戦いでは、すぐに頭に血を上らせるのは禁物だと忠告したはずだぞ」
 ショーソンは突撃の構えで手に模擬槍を持っていた。オスカルは力で向かってくる敵を、まともに正面から相手にするつもりはさらさらなく、それをかわそうとしていた。しかし振り返ると、後ろから付いてきているはずのクロードが、どういうわけかオスカルの馬の行く手の外側を走っている。
「クロード! 隊を乱すな!」
 しかしクロードはオスカルをショーソンとの退路を断つかかのように、なおも距離の幅を縮めて来る。
「ランベールはどういうつもりだ…?」
このままでいくと、オスカルは敵と味方に挟まれて、身動きが取れなくなる。おれは遠くで見ながら焦った。
 しかし、すでにオスカルは躊躇している暇はなかった。
どんどんショーソンが加速をつけ、ものすごい勢いで反対方向から突進してきた。
 こうなってしまったからには、どうしようもない。オスカルも勝負の瀬戸際に立たされ、ショーソンと一騎打ちする覚悟を決めたらしい。あいつも模擬棒を手に構えた。だがオスカルは一騎打ちをするように見せかけ、後ろからくるクロードをぎりぎりに引きつけたその瞬間、さっと消え去るような全速力で、その場所から一気に駆け抜けていった。
 オスカルの馬がその場に急に消えたせいで、誘導された格好のショーソンとクロードは激突し、オスカルを倒すために構えられたショーソンの一撃はクロードにまともに当たり、馬から吹っ飛ばされてしまった。
おれはオスカルの姿を探したが馬に乗っていない。どこにもいない。もといた場所にはあいつが手にしていた模擬棒と、紅軍の総大将が被る軍帽が転がっていた。
さては突き落とされたのかと思いきや、オスカルはショーソンの強烈な一撃を一瞬でかわすため、なんとコサック兵の曲乗りのように片側の脚を鐙から外し鞍に引っ掛け、外周する側に身を乗り出して走っていた。そのポジションのまま、敵の陣地へ大きな円を描きながら馬を全速力で走らせ、気が付いたときには、すでに軍旗を奪い去り、その竿の部分で向かってきた敵の騎兵どもを薙ぎ払い、馬から叩き落して、今は自分の陣地へ駆け戻ってきた。あっという間の出来事だった。
なんとも冴えて鮮やかな手際だった。味方からも見物席からも、地鳴りのようなものすごい歓声が聞こえてきた。
 空砲が鳴り、フラダリの旗が振られた。
「紅軍の勝利!」
 味方の陣地へ引き返してきたオスカルにおれは声を掛けた。
「やったな! オスカル」
「ああ」
 しかし、オスカルはなぜか勝利の歓びで輝いておらず、心なしか曇っていた。
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 オスカルのもとに、紅軍の総大将として国王陛下の御前に拝謁せよ、とのお達しがあった。それを聞くとオスカルの全身に緊張が走った。そして思わず、あいつはおれのほうを振り返った。
「アンドレ…」
 おれは目顔でうなずいた。
オスカルが陛下の御前に進み出、ひざまずいて恭しく口上を述べ挨拶した。
「国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しいこととお慶び申し上げます。そしてまた、このオスカル・フランソワ、陛下のご尊顔の栄に浴しましたこと、誠に恐悦至極に存じまする」
「おお、そちがジャルジェ将軍の自慢のオスカル・フランソワか! 見事じゃ、ようやった!」
「は、ありがたき幸せと心得まする」
「苦しゅうない、面を上げよ」
「はっ」
「まぁ、なんという凛々しい少年でしょう、ねぇ、国王陛下」
 隣に座っていたデュ・バリー夫人は、紅軍を勝利に導いた総大将のあまりの美少年ぶりにびっくりして、国王陛下に思わずそう申し上げておられた。
「はは、デュ・バリー。そちも見事に騙されおって。これはの、ジャルジェの秘蔵っ子じゃ。驚くなよ、実はな、このオスカル・フランソワはのジャルジェの六番目の姫なのじゃ」
「え? なんと仰せになられました? 姫でございますか、陛下。ということは…」
「そうじゃ、このオスカル・フランソワは、実は女なのじゃ」
「まさか? 本当なのですか、オスカル・フランソワ」
 デュ・バリー夫人は信じられない面持でオスカルに尋ねた。
「はい、さようでございます、奥さま。わたくしは女でございます」
 国王陛下は上機嫌で豪快に笑いながら仰せになられた。
「しかしまぁ、オスカル・フランソワ。猛々しいことを好むわりには、これはなんとも愛らしくも整った容貌じゃの。しかしさすがに、利かぬ顔をしておるわい。ジャルジェものう、若いころは女と見紛うほどの美丈夫だったゆえに。まあこれは血筋じゃの。だがのうオスカル・フランソワのような、一風変わった勇ましい麗人を手元に置いて調教するのも、案外楽しいことかもしれんのぉ…」
陛下はオスカルをご覧になって相合を崩された。陛下が艶福家であられるのは有名なことで、これまで数え切れないほどの愛人が陛下の間を去就していた。オスカルを見て、陛下の好き心がまたぞろ動かされたのではないかと思い、おれは気が気ではなかった。
「まあ、陛下、お戯れはお止し遊ばせ」
 デュ・バリー夫人はきつい一瞥を国王陛下に加え、牽制してくれた。
「冗談じゃ、デュ・バリー」
それを聞いてほっと胸をなでおろした。いくら陛下とはいえ、大事なオスカルをこんな狒々爺の喰いものにはされたくないからな。
「まぁ…それにしても。女の身でありながら、あのように荒々しい戦いに挑んで勝つなどとは。わたくしと本当に同じ女性でありましょうか」
 旦那さまがデュ・バリー夫人のことばを引き取った。
「わが娘、オスカル・フランソワはこの世に生まれたそのときから、男子としてわたくしが手塩にかけて育てて参りました。決して男どもにひけをとらぬこと、国王陛下におわかりいただけたかと存じます」
「いやいや、見事であった、ジャルジェよ。そしてオスカル・フランソワ。朕は満足である」
 陛下はふと思いついたように言った。
「そちは少尉任官試験は受けたのか?」
「はい、陛下。去年の卒業生にあたる者たちと共に受けて資格はすでに取ってございます」
「ふうむ、抜け目ないことよ」
「はっ。恐れ入りましてでございます、陛下」
「さてそちは、いつ近衛隊に参る?」
「はい、できる限り早く参じるつもりでございます」
「そうか、苦しゅうない、このたびの働きにより大尉に任官する。オスカル・フランソワ、大尉として出仕せよ」
「はっ。身に余る光栄でございます、陛下」
 陛下は嬉しそうに仰った。
「もうすぐオーストリアの姫が来る。そちが姫をエスコートするのであるな。まさしく一幅の絵じゃ。さても楽しみなことよの」

 紅軍の陣中に戻って来たときには、すでにそこいら中に、国王陛下とオスカルのやりとりが浸透していた。
みんなは一様にオスカルが女ということに驚愕していた。それはそうだな。以前あんなにもはっきりと女だということを否定していたんだから。
 一緒に参謀として戦ってきたアルノーが、オスカルを質した。
「オスカル・フランソワ。これは一体どういうことだ?」
 オスカルは少しの間沈黙し、みんなの顔を一巡したあと、切り出した。
「諸君、すまない。わたしは嘘をついた。たしかにわたしは男ではない」
「だが作戦会議のとき、君はあんなにはっきりと、自分は男だと断言したではないか。ましてや神にまで誓ったのだぞ」
「では改めてこちらから問う。諸君はたとえあの時点で真実を知らされていたとしても、わたしに付き従うことが、果たしてできただろうか? 軍の士気を下がらせずに、今日の日を迎えることができたと思うか?」
「いや、知っていれば、われわれは絶対に君を総大将に据えたりはしなかった」
「総大将になったのは、もともとわたしが望むところではない。これは陛下のご意向だったのだ。臣下であるからには、それを拒むことはできない。そしてその命を一旦受けたからには、わたしには責任があった」
 オスカルのことばに、みなは一瞬押し黙った。
「それゆえに、畏れ多いことだが、わたしは神にまで虚偽の誓いをした。もっともそれが赦されることだとは思っていない…。だがあのときはわたし自身のことより、紅軍の勝利のほうが先決だったのだ。総大将になったときから、わたしはこの勝負が終わるまで、どんなに疑われようが男で通すつもりだった」
戦勝気分から一変して、総大将が女だと知れたとたん、一同は口々にあいつを尋問口調で責めていた。おれは腹が立った。みなで寄ってたかってオスカルをなじっている。だがあいつは、ひとりで耐えていた。
おれは黙っていられなくて、その中へ割って入った。
「みなさん、わたしは部外者ですが、ひとつ言わせてください! たしかにオスカル・フランソワさまは女性です。わたしはオスカルさまの従者ですから、もちろん最初から女だと知っていました。そしてそのことで、どれだけオスカルさまが苦しんできたのかも、傍近くに仕えてきて知っております。ですが彼女は、みなさんと同じ気持ちで戦ってきたのです。彼女なりに自分のできる最善を、その場その場で尽くしてきたのです。そのことにどうぞ思いを馳せてみてください。あなたがたは彼女が、男に従属させられる性であっただけで、そんなに怒りに駆られるのですか? 教えてください! あなたがたは、男も女もなく、単に優れた資質を認めることができないのですか? オスカルさまが女であることは、それほどまでに罪深いことなのですか?」
 勝利に導いたのは他ならぬあいつだというのに、あまりにもみんなが身勝手なので憤っていた。だがオスカルがなだめるように、おれの前に立って止めた。
「やめろ、アンドレ。もういいのだ」
「諸君、すまない。諸君が女のわたしを不快に思い、その統率の下で働けないと感じるのは当然だ。軍隊という男同士が真剣な命のやりとりをしている神聖な場所に、本来女は立ち入るべきじゃない。女がいるだけでこの場を穢している。そのことは女であるわたし自身が充分すぎるほど痛感している。なぜならわたしの存在は、軍隊の中にあって、道化でしかありえないからだ。女のわたしが男の恰好をして、懸命に男のふりをすればするほど、かえってその違いがはっきりと際立つのだ。それはしょせん、猿真似だし、なにより滑稽でしかない。だからこそわたしは、今日の日まで女であることを隠す必要があった」
「それがわかっているなら、なぜ軍隊へなど入った?」
 オスカルは自嘲気味に自分の立場を語った。
「わたしの近衛隊入隊は、オーストリアから輿入れになる王太子妃殿下付きの近衛隊士が女性であれば一興だという、極めて気まぐれな思いつきによるものだ。それがいかに不条理で馬鹿げていると周囲に思われようと、それが陛下の思し召しならば、臣下たるわたしは否と申し上げる筋にはない。陛下はわたしに道化であることを望まれるのだ。だからわたしはたとえ自分が道化と解っていても、道化なりの道を貫くため、ここに来た。諸君に理解してもらえるとは思わない。このわたしという矛盾した存在を…」
 オスカルの態度は一種の清らかな威厳に包まれていた。淡々と自分を国王の道化であるとすら宣言するのを聞くと、その場は水を打ったように、しんと静まり返った。
「もういい、ジャルジェ。自分ばかりを責めるな」
「ジャルジェ、おまえは道化なんかじゃないぞ!」
 アルノーが再び、口を開いた。
「たしかにオスカル・フランソワばかりが責められるべきではない」
 遊撃隊の司令官だったベルトンが、反省するようにぼそりと言った。
「男とか女とかを別にして、わたしは騎兵科でずっとオスカル・フランソワと一緒だったが、こいつには敵わないとよく思ったものだ。特に今回のこの作戦の密なこと、そして指揮の見事なこと。彼…、いや彼女だからこそ、やりおおせたことだ」
「まさしくな。今日の勝利は、男だからだれが総大将についても、もたらされるといったような、そんなたやすいものではなかった」
攻撃の司令官を務めたバラティエがそれに賛同した。
「そうだ。誰でもこんなふうにできるもんじゃない。われらは彼女を赦すことができないほど、そんな料簡が狭いわけでないぞ」
そしてバラティエはオスカルに向かって言った。
「オスカル・フランソワ。君はわれら紅軍を率いて、全員に離脱させることなく厳しい訓練を施し、軍全体の士気を高揚させ、そしていざとなれば、誰よりも前に出て勇猛果敢に戦いに挑んだ。よほどの覚悟と気概がなければできることではない。そして最後のあの快挙。まさに鬼神のごとき働きだった。弱冠十四歳にしてこの風格、もうここまできたら、男も女もない。まさに将の器だ」
「そうだ、おれたちだって、そんな器量の小さい人間じゃないねぇ! 男を見損なってもらっては困るぞ、オスカル・フランソワ!」
「何事も公平に見ることができる視野をもってこそ、一人前の男だろうが!」
「そうだ、そうだ!」
 ひとりが皆に向かって叫んだ。それに応えてそこにいる全員が、はじかれたように異口同音に唱和した。
「おれたちは今まで女性というものを、見くびっていたのかもしれんな。女だって世の中には男以上に切れる人間もいるってことを、われわれはオスカル・フランソワという存在を通じて思い知ったのだからな」
「オスカル・フランソワは、勝利の女神たるニケだ! おれたちには女神が付いていたんだ! おれたちの紅軍は神々に祝福されていたんだ!」
「そうだ、オスカル・フランソワに万歳!」
「勝利の女神に万歳!」
 みんな歓呼してオスカルを讃えた。オスカルの眼に涙がうっすらと滲んでいたのを、おれは見逃さなかった。

 紅軍が勝利の感動に沸き立っているところへ、敗軍の将であるショーソンがこちらに近づいてきた。オスカルはそれに気づいて、皆の中をすり抜けて、ちょっと離れたところに立っているショーソンのところへ向かった。
「ショーソン…」
「ジャルジェ、おれは思い違いをしていた。おれはおまえが単なる苦労知らずの大貴族のぼんぼんだと思い込んで、たぶん嫉妬していたんだろうな。だがさっき、おまえのことをみんなから聞いた」
「そうか…」
「おれは想像することすらできなかった、おまえがその淡々として落ち着き払った表情の中に、並々ならぬ苦悩を隠していたことなど。すまん。おれは、おまえになにかと突っかかっていったが、考えてみれば、おまえはどんなときでも、誠実な態度で臨んでくれていたんだな」
「いや、わたしは単に当たり前のことをしただけだ」
「ジャルジェ、いや、今はもうオスカル・フランソワと呼ばせてくれ。オスカル・フランソワ。おまえは女ながら実にあっぱれなヤツだな。おまえは男以上に男だよ。おまえのその胆力におれは心底敬服している。そして最後におまえとは本当にいい勝負ができた」
「ショーソン。いや、今からわたしも、おまえをアントワーヌと呼ぼう」
「おれもこの秋にはここを卒業する。いつかどこかでまた会えるといいな」
「ああ、すぐ再会できるさ」
 だが、ショーソンはぼそりと言った。
「だが、オスカル・フランソワ。おまえは本当にこれで構わないのか?」
「うん? 何のことだ?」
「おれはおまえと今まで戦ってきておまえが本当に実力のある勇士だということは誰よりもわかっているつもりだ。だがまた反対に、こういっては何だが、おまえには男には決して真似できない細やかな配慮というものがあるのもわかるのだ。女性にしかできないたおやかさというものがな…。おれは心の底からおまえが本来の性である女に戻らないのは惜しい気がするのだ。いや、悪く取らないでほしい。女性としてそれだけの美質を持ちながら…」
 オスカルはショーソンをじっと見つめた。
「アントワーヌ、わたしを心配してくれるのだな。その気持ちこそが天がわたしに与えてくれた真のいさおしだろう。今のことば生涯大切にして決して忘れない。だが心配ご無用だ。わたしにはアンドレが付いていてくれる。世の中にはひとりぐらいわたしのような変わり種がいてもいいだろう?」
 ふふふとオスカルは笑った。
「オスカル・フランソワ…。決心は固いのだな。よしわかった。では元気で!」
「アントワーヌ、ありがとう。またいつかきっと会おう!」
 オスカルとショーソンはお互いに固い握手をした。
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おれたちは家路に着こうと準備していたとき、向こうからランベールがやって来た。
 オスカルはランベールを見て、急に気色ばみ、態度を硬化させた。
「クロード! あなたに訊きたいことがある。試合のときのあなたの行動は一体なんだったのです? あなたは味方だろう? 理解不能だ」
 いつもポーカー・フェイスで押し通しているオスカルとは思えないほど、怒りを満面に露わにしていた。だが一方のランベールは、そんなオスカルの怒りなど柳に風と受け流した。
「ああ、オスカル。申し訳ない。あれは単にぼくのミスだった。ちょっとぼくも、どうかしていたとしか思えないんだが、実戦ではああいうことは付き物だろう? しかし、結果的にあれが功を奏して、戦いを勝利に導いたんだから許してはもらえないだろうか?」
「今なんと言われた? 単なるミスだと? あれだけのことをしておきながら?」
 オスカルはランベールの態度に呆然としてしまった。そりゃそうだ。あいつはショーソンとランベールに挟み込まれ、打ち取られるところだった。下手をすれば、前と後ろの両方から模擬棒で突かれ、大ケガをすることだってあり得た。しかも、敵同士で挟み込まれるのならまだしも、味方が自分の大将の退路を断つなど、決して判断ミスだけで言い逃れできるものではなかった。
だがランベールは、努めてなんでもないような素振りをしていた。そしておれに向かって言った。
「あ、アンドレ。旦那さまが君に用があるそうだ。探しておられたぞ?」
「え? 旦那さまが?」
 それからランベールはオスカルに言った。
「それとオスカル、ジャド教官が近衛隊に入隊する手続きの書類の不備とかで、君に話があるそうだぞ」
「不備だと? おかしいな。いや、そうか…。クロード、ここで立ち話もなんです、歩きながら話しませんか。とりあえずあなたの言い分を聞きたい」
 このふたりの会話に、いや、ランベールの行動になにか不審なものを感じたんだが、旦那さまのお召しとあれば、応じないわけにはいかない。気になりつつも、おれはその場を離れた。
 試合が終わってしばらくは、興奮冷めやなかったシャン・ド・マルスの見物客も、夕方になり次第に三々五々と引き上げていくところだった。ところが旦那さまを捕まえようとしても、なかなか見つからない。やっと探し出したときは、旦那さまは奥さまと一緒に馬車に乗りこまれる寸前だった。遠くに見える旦那さまのところへ全速力で赴いた時には、おれは息を切らしていた。
「旦那さま、間に合ってよろしゅうございました。ところでわたくしに御用とは? 一体なんだったのでございましょう?」
 おれは旦那さまに尋ねた。旦那さまはおれが息せき切ってきたことが分かると、一旦乗りかけようとした馬車のステップから降りられ、おれの肩を両の手でばんばんと叩いて激賞された。
「おお、アンドレ。オスカルはやりおったな! おまえはあれの傍にずっとついていてくれていたのだな? 見ていればすぐにわかるぞ。気持ちが安定していたようだからな。陛下も大変お喜びだったぞ。実にめでたい
「あ、はい…。それで、旦那さま、わたくしはお召しと伺ってここに参ったのですが…?」
 旦那さまは怪訝な顔をなさった。
「わたしが、おまえに? いや、わたしは特におまえを呼んではいないが…おかしいな」
「あ、さようでございましたか。失礼しました」
 奥さまが、にこにこしながらおれにおっしゃった。
「アンドレ、本当にご苦労さまでした。大変だったでしょう、オスカルのお守りは。とにかく一度、おまえもオスカルもヴェルサイユに戻っていらっしゃい。一度みなで食事をしましょう。ああ、そのときは、ばあやに腕をふるってもらってとっておきのご馳走にしましょう、ね」
「はい…奥さま」
 狐につままれたような気持で、もといた場所に戻ろうと歩いていると、向こうの方からショーソンがやって来た。
「あれっ? おまえはオスカルの従者の…おまえ、たしかアンドレといったな?」
「はい、さようでございますが。なにか?」
「おまえにひとつ忠告がある。オスカル・フランソワと親しくしていたランベールという男、なにか怪しいぞ。味方のくせにオスカル・フランソワの行く手を阻もうとしていた」
「はあ、ですがあれは、単なる判断ミスだったとのことですが…」
「いや、そんなはずはない。おれはランベールを真っ向から見ていたから判ったのだが、あいつがオスカル・フランソワを見るときのあの目。ものすごい敵意を感じたぞ。あれは絶対にワザとだ。きっとなにかあるぞ。気を付けてやってくれ、オスカルに」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
 そう言われて、おれはハッと気づいた。
 オスカルは今、どこにいる? そういえばジャド教官の名前をランベールは口にしていたような…。おれはすばやく頭を巡らせた。ランベールは一体オスカルをどこへ連れて行った? 気が付けばおれは駆けだしていた。
 それに旦那さまがおれに用があるといって、オスカルから引き離したのも、ランベールだ。なにか変だ! おかしい。
「まずい! これは罠だ!」
 シャン・ド・マルスから離れて、急いで士官学校の本館のほうへ走った。ああ、なにかとてつもなく胸騒ぎがする。間に合ってくれ! おれはジャド教官の執務室へ向かった。
執務室の扉の取っ手を音を立てないように、そっと握ってみると、中から鍵が掛かっていた。おれは扉に耳を当てて、部屋の様子を伺ってみた。するとぼそぼそとした声が聞こえる。絶対にこの中に、オスカルはいると確信した。
ドアから少し離れて勢いをつけドアを蹴破り、部屋に踏み込んだ。すると中には、気を失ってぐったりと床に横になっているオスカルの肢体の上に男がふたり、圧し掛かっていた。
それは案の定、ランベールと教官のジャドだった。
「おっと、おっと。そこまでだ。アンドレ。これが見えないか?」
 ランベールは青ざめて目を閉じているオスカルの頬に、ナイフを当てた。
「下手に動くと、このナイフがオスカルさまのおきれいな顔を傷付けちまうぜ」
ジャドはオスカルを人質に取られて身動きができないおれの手と脚を縄で縛った。そして、おれの背中に蹴りを入れて床に転がせた。おれはだが、尋ねずにはいられなかった。
「ランベール! オスカルになにをした?」
「ふふん、ちょっと眠ってもらおうと思って、後ろから銃床で、思い切り頭を殴ってやったのさ」
「酷いことを。なぜだ? どうしてこんな裏切るようなマネをする?」
「おれはとっくの昔に、ジャルジェ家を見限っていた」
「ははは、気づくのが遅すぎるんだよ、おまえは。そうだ、ランベールにはジャルジェ将軍のスパイをしてもらっていたのだ」
 横から教官のジャドが割って入り、ほくそ笑みながら言った。
「われわれはこれまでなにかとジャルジェ将軍には、煮え湯を飲まされてきたからな。ここらできっちり落とし前をつけてもらわないとね。わたしがお仕えするショワズール公爵の邪魔をされてはかなわない。こいつが王太子妃付きの近衛士官になって、またぞろそこらを嗅ぎまわられると、公爵さまの計画が台無しになってしまう。もう国王陛下もいいお歳だからな。今は次期国王になられる王太子夫妻を、なんとしても手懐けておく必要がある」
重ねてランベールはおれに言った。
「ジャルジェ家はな、もともと男子が生まれたかった時点でついえる運命だったんだ。それを女を男と偽って育てるなど小賢しい真似を。おれが天誅を神に代わって下してやる」
「なんだと? 勝手なことをほざくな、ランベール!」
 おれは怒鳴った。
「オスカルも最初はおれが手なずけて、一気にベッドへと誘惑してやろうとしたのだが、こいつは小娘のくせにいっかな隙を見せない。ふつうの女のように男に対する好奇心もない。乗ってこないんだ。これまでおれにかかると、どんな女でも籠絡させられたのに、こんなやつは今までで初めてだ。これにはおれも参ったぜ」
 こいつは百戦錬磨の恋の手練れだったのか? おれはそれを聞いて歯ぎしりした。
「オスカルは、おまえなんかに誘惑なんかされるもんか、外道め!」
「やかましい、番犬は黙っていろ!」
「さてと。どうするかな…?」
「ここはひとつ、アンドレ、おまえにひと肌脱いでもらおうとするかな」
「どういうことだ!」
「筋書きはこうだ。かねてから主である、男装の麗人であるオスカルさまをお慕いしていた従僕のアンドレは、叶わぬ恋に身を焦がし、オスカルさまを無理やり凌辱する。思いを遂げたあとアンドレは、オスカルを殺め、自らの命も断つのだ…。ふふふ、ここに悲劇の幕は閉じる、と。どうだ? コルネイユばりの、ちょっとしたもんだろ」
「なんだと? そんなことさせるか!」
 ランベールは抵抗できないのおれの横っ面を、思い切り張り飛ばし、おれの髪を乱暴につかんで床に二三度叩きつけやがった。おれの額が割れてタラタラと顔に血が伝った。一皮剥けば、こいつは凶暴なサディストだ。
「馬鹿野郎! おまえらは絶対にデキていただろう? おまえらは、なにかってぇとすぐにいちゃいちゃと視線を絡め合っていたよなぁ、おまえらを見ていて本当にイライラした。くそっ。こんな男のような女の言いなりになりやがって。きさまそれでも男か?」
「この女はな、可哀想に自分がただの無力な女だってことを自覚できていない。なにしろ周囲に甘やかされるだけ甘やかされて、自分のことを男以上にえらいと勘違いしているようだからな。だから死ぬ前にせめて勘違いは勘違いと正してやるのが筋ってもんだろ。だから今からおれがこいつをたっぷりとこいつを可愛がって、自分がなんたるかを思い知らせてやる。おまえは黙って見てろ!」
 ランベールは初めから女としてのオスカルに並々ならぬ執心を持っていたことを思い出した。ふたりはオスカルが気を失っているのをいいことに、オスカルの上着のボタンに手を掛けた。
「よせっ! やめろ!」
 おれはどうしたらこの窮地から脱することができるのか、必死になって考えた。せめてオスカルの目が覚めてくれたなら…。
 ところが、気絶していたはずのオスカルは、ふたりの男にいいようにされたまま、男たちが目を離した隙におれのほうに一瞬目を開けて、自分が覚醒していることを知らせてきた。おれも目顔で了解の合図をした。そしてあいつはこっそり、さっきランベールが使っていたナイフを、おれのほうへ脚で蹴ってよこした。
「!」
 ふたたびオスカルは気を失ったふりをして、男たちのなすがままになっていた。ランベールは自分の欲情を丸出しにして、オスカルの唇を貪っていた。ジャドはひひひと野卑な笑い声を立て、反対側でオスカルの両腕を抑えながら、それを見ていた。オスカルはふたりの乱暴狼藉に気絶したふりをし、身体に力を入れないようにして耐えていた。だが、一瞬開いていた薬指がぴくりと震えた。やはり我慢しているのだ。おれはそれを見てかっと頭が熱くなったが、今は冷静になってことを運ばなければならない。おれは自分に言い聞かせた。
そのナイフのほうへ手を出して、ふたりに気づかれぬよういましめを切りにかかった。ふたりは夢中になってオスカルの軍服を脱がそうとしていた。しかし今日は御前試合のために、ユサール騎兵の金モールの装飾ががずらりとついた肋骨飾りの上着のその上に、さらに左肩に引っ掛けるプリスまで着込んでいたので、そうおいそれと簡単には脱がすことはできなかった。ランベールは逸る心を抑え、苦労して二重になっている上着の留め金と書けボタンを外し、腰に巻いたサッシュや帯剣ベルトを解き、最後にやっとブラウスのボタンを全部外すと、失望した声を漏らした。
「ああっ!こいつ、胸をリネンの包帯で隠してやがる。しかもこんなにきつく巻いていやがって! 結び目がこんなに固くっては解けやしねぇ!」
「ああもう、面倒くさいことは省略だ! 単刀直入にやろうぜ」
ランベールが猛り狂って、オスカルのキュロットに手を掛けようとした。
 いましめから自由になったおれは、一気に立ち上がり、激情に任せて間髪入れずにふたりの急所に、強烈な蹴りの一撃を喰らわした。自分の中で抑えがたい殺意の衝動に駆られた一瞬だった。
 ぐふっと泡を吹き、白目をむいてジャドとランベールは、ぶざまに悶絶した。おれは怒りに駆られて、そいつらのどてっぱらにさらに蹴りを二三発喰らわしてやった。それでも、まだ気持ちは収まらなかったが、オスカルが止めた。
「これ以上やるとこいつらは死ぬぞ、やめろ、アンドレ」
「いや、赦せないね、こんな卑劣なことをしやがって」
「まあ、こいつらはどうでもいいが、おまえが人殺しになられるのは困る」
「いや、こんなふうに女を暴力で支配しようとする輩には、吐き気がするほどムカつくぜ。ちきしょう、この野郎!」
 おれは怒りを抑えられず、そこらへんにある椅子を次々と床に打ち付けて叩き壊した。オスカルはわれを忘れるほど猛々しく激昂しているおれを見て、ひそかに案じて、気をそらせようとしたみたいだった。
「それより、おい、アンドレ。苦しい…。このふたりをわたしの上からどかしてくれ」
 おれはハッとわれに返った。そして言われた通り、急いでオスカルの身体の上から男どもをどかした。
「おい、身体のほうは大丈夫か? 打たれた頭は痛むんじゃないか?」
 おれは慌ててひざまずいて、オスカルの顔をのぞき込んだ。あいつはおれの眼を見ると、ふっと微笑した。そしてわざとらしく大息をついた。
「ふう、重い。脱力した男ふたりに圧し掛かられて、窒息しそうになったぞ」
 危機一髪から脱したくせに、オスカルはやけにのんびりと素っ頓狂なことをほざきやがった。



「アンドレ、今日は、大変ということばでは簡単に済ませられないほどの一日だったな。すぐにパリの屋敷には戻りたくなくない。気がおかしくなりそうだ…。今日はこのままふたりでヴェルサイユへ帰ろうか?」
 シャン・ド・マルスから馬車に乗ったオスカルは言った。
「おれは別にいいけど?」
「じゃあ決めた。そうしよう」
 オスカルは馬車の窓から、御者にヴェルサイユへ向かうようにと告げた。馬車の中には太陽が沈んだあとの弱い光が射していた。
一日の内にあまりにいろいろなことがありすぎたから、おれたちは少しその興奮を冷ます必要があった。こうやって二時間ほど馬車の振動に身を委ねながら、ぼんやりすごすのも悪くない。
「もうしばらく、パリとはご無沙汰になるな、わたしのほうは」
 オスカルは馬車の窓枠にほおづえをついて、暮れなずんで菫色に流れていくセーヌを横目で見ながらつぶやいた。
「そうだな…。おまえはこれから、近衛士官としてヴェルサイユの王宮詰めになるのだしな」
「まあ、とりあえずはほっとした。一時はどうなることかと思ったが、無事士官学校も終えることができた。いろいろあったが終わりよければすべて良し、ということで一応収めておくとするか。過ぎてしまえば結構悪くない思い出だ。ところでアンドレ。おまえはこれからどうする?」
 オスカルは真剣な顔をしておれの顔を見つめてきた。そしていつもよりも、ずっと自分を抑えた静かな声で言った。
「わたしはおまえにこれ以上、無理強いはしない。おまえはまたパリのフランス学院へ戻ってもいいのだ。自分の好きなように生きることを止めはしない。わたしはこれ以上、おまえのくびきにはなりたくないのだ」
「いや、いいんだ、オスカル。おれもここに来てようやく判ったよ」
「なにを?」
「おれの生きる道さ」
「というと?」
 オスカルは少し恐れの混じった表情をした。
「おれはおまえに付いていくよ。説明するのは難しいんだけど、おれの心がそう命じたんだ。おまえと一緒に歩む道を選べとね」
 そうなんだ。オスカルがランベールたちに乱暴されているのを見て、おれは怒りに震えた。こんなオスカルは二度と見たくない。ああ、守ってやる! それこそが今おれがここにいる理由なんだと思うと、すうっと今までのわだかまりがが霧散した。
「いいのか、それで本当に?」
 オスカルの眼が図らずも大きく見開き、喜びで輝いていた。
ああ、そのとき思ったんだ。おれはこいつを愛しているかも、とな。
だからこいつの喜ぶ顔がこんなにも嬉しかったんだ。
「ああ」
「そうか…」
 オスカルは短くそれだけ言うと、しばらく目を伏せ、溢れそうになる涙をこらえていたようだったが、潤んだ目をいっぱいに開いておれに言った。
「五月になったら、オーストリアからマリー・アントワネットさまがお輿入れになる。王太子殿下と共に、コンピエーニュまで、お出迎えしなければな」
「ああ、そうだな。また忙しくなるな、オスカル」
「ああ、アンドレ」




        ― 完 ―  


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sadafusa

ここにはカキコミできるようです。
by sadafusa (2016-10-06 22:52) 

どま

どうもこんにちは。
お言葉に甘えて、感想を上げさせていただきます。
あとがきも読みましたが、なんとなく感想はこちらのほうがいいかなと思い。。
自分の考えと感想の部分が入り乱れており、読みづらい文章になってしまいましたが、お読みいただけると嬉しいです。

オスカルとアンドレって、原作設定のドラマチックさに、ついついファンが空白を保管してしまうところが人気の秘密なんでしょうね。
この二人の関係性の本当の深いところって原作には描かれてなくて、後半のアンドレの切ない独白で無理矢理引っ張っていっている感じがします。

わたしが特にもやっとしてたのが、まさに、「アンドレはオスカルの影だ」みたいな表現ですよ。具体的にどういうことやねん、それ!?っていう・・・
sadafusaさんがあとがきに、ちょっと違う観点から書いてらっしゃいましたが、そちらもとても共感しました。

あとオスカルが、いい年のくせして、「お互いなしには生きられないことを考えてもみなかった」(対ジェローデル)とか言っちゃうところ。
あまりにもオスカルが非人間的すぎるんですよね。
たぶん、「フランスの貴族のお嬢様」という設定でなんとなく納得させられてるんだろうけど。

ただ、わたしは漫画といえど、登場人物の気持ちの流れに対して、どうしても根拠を求めてしまうんです!
なので原作を何度も読み込んだり、ネット上のファンの方の作品を見て補完してみたりしてたのですが、

ついに、ここに答えが!!!!(笑)

読んでいて、おそらくsadafusaさんが描かれているオスカルは、アニメのほうをイメージされているのだろうなとは思いました。
わたしも、アニメの、最初から自分の生き方に悩んでてなんとなく暗いオスカルのほうが、始終男としての自信たっぷりな原作のオスカルよりも共感できる人間です。
そしてその暗さに至った経緯というか、そうせざるを得なかった切なさが描かれているこちらの作品にどっぷりはまりました~。

物心ついたら自分は周りの人間とはまったく違った生き物になっていて、誰も共感してくれる人がいない。
きっと、男も女も周りが何を考えているのかわからないというような恐怖もあったのだな、とこちらを読んで気づきました。
だからこそ、マイノリティである平民たちへ心を寄せていったんだなあとも推測できます。

この作品では、そういう思春期の心の動きが、オスカルのキャラクターを損なわずに描かれていました。
そして、そんな誰にもみせない悲痛な思いを共有することになったアンドレは、そりゃあ運命共同体ですわ。

やっぱり人が他人を愛するときは、その完璧さにではなく、その不完全さに惹かれるものだと思うんですよね。
しかもアンドレの場合、正に自分だけにしか見せないという、というか他の人には見せてはいけない、という使命まで背負わなければいけないんだからもう・・・そりゃあ 
おれのオスカル!!!
ってなっちゃいますよね(笑)

そんでオスカルも、自分が自分を保ち生きていくのに必死で、しかもアンドレを異性として愛するのは自分の行く道を否定することだから、どうしても気づいてはいけないと思っている。
てか、オスカルは本当に自分を鬼のように鼓舞して生きていたのだというのが、成長の過程でアンドレにさえ感情を抑えていったという冒頭のシーンから感じました。

いやー、その辺りが、素晴らしくしかも情緒たっぷりに描かれていて本当に心酔しました!

あとですね、特に私が感銘を受けたのは、「オスカルがどのように軍人としての完璧さを手に入れていったか」が事細かに描かれている点です。
才能もあったんだけど、並大抵の努力ではなかったのだ、というところがオスカルが男であろうとした必死さの根拠になっているのですよね。
わたしこんなに頑張ってるけど、これって何の意味が・・・って気づいてしまうと、たぶん普通の精神状態ではいられないですよね。

また、それぞれの生活や士官学校でのシーンがとても具体的に描かれていたところも魅力ポイントです。
きっとsadafusaさんは読書家でいらっしゃるので、時代背景についての造詣の深さをお持ちで、さらにたくさん下調べをなさって書いておられるんだろうなという気がしました。
士官学校の訓練だとか、アンドレの学校での暮らしだとか色々なその時代の用語を使って描かれていて、わたしはそのあたりの歴史とかに詳しくはないのですが、妙に世界観に引き込まれました。

最後に、「君は~光~ぼくは影~」についてわたしがどのように納得したかのついて。
sadafusaさんはその表現は違うんじゃないかとあとがきで書いておられましたね。
たしかにわたしも、二人の関係性ってこの作品みたいに本当に対等な関係だったと思います。
それでいうと、アニメ最後の「あなたについていきます」オスカルはやっぱり私としては違うな、と思います。
ただその「オスカルが光、アンドレが影」という表現が、二人以外の人からの見え方だったとすると、やっぱりそれはそうだったんだなーと。
オスカルは誰をも屈服させるくらいの輝きを放たなければならなかったし、そんなオスカルの闇の部分を抱えて寄り添っていたという意味ではアンドレはやっぱり影なんだな、って。
こちらの作品を読んで、最終的にわたしはそう思えるようになりました。
うん、でも原作では自分たちで言っちゃってますけどね。(笑)

以上、本当に邪魔なくらい長い文章になってしまいました・・・
とにかく、こちらの作品はわたしの中では完璧どストライクでした!
二人が成熟する前の、お互いなんだこいつ、と思うところがある時期があってのベルばら終盤の二人なんだろうなと思います。
そこがまさに読みたかったし、書かせていただいたように本当にそれが緻密で情緒たっぷりで、、なんども言いますが、心酔しています!

ほんとうにうざいくらいですみません・・・
もしこんな考えもあるんだよ、というのがあればお聞かせください!
それでは!
by どま (2016-10-06 22:56) 

どま

できました!
お手数おかけしました^^
投稿してみると気の遠くなるような長文・・・本当にすみません。
by どま (2016-10-06 22:57) 

sadafusa

すごいものを読んでしまいました…。

まさしくおっしゃっていること
私もおんなじことを考えていました。
なんか原作って無理やりなんですよね。

で、「いや、そうじゃないだろう」って思うの。
だって、原作あまりにも超人すぎて。
超人なら、アンドレは絶対に受け入れられない人間じゃないの?
ってなんか「変だな~」みたいな。


まあ、たしかにどまさまのおっしゃる通り
「光と影」なんですよね。

だってこんなにすごいものを抱えている人を
全面的にサポートするには影というか黒子に
徹しなければならないはずですよね。

私も書いているうちに自分の考えが整理できなくなっていった、
というのも変ですが考えが移行しているところも
あるかも、とどまさまのカキコを読んで考えさせられましたよ。

っていうのもね、
私はついつい、ユングのいう
「アニマ」と「アニムス」っていうのを考えるのですが
オスカルの場合はね、最初、迷いがないときは
女性の「アニマ」の部分が弱いんです。
で、男性の「アニムス」ばっかりが強くなるのね。
たぶん、無意識に猛々しくなっている状態なのね~


で、ペアを組んでいると、というかまぁ一緒にいると、
オスカルの「アニムス」が強すぎるせいで、
アンドレの「アニムス」が引き出されなくなって
反対に「アニマ(女性性)」が強くなるんですよ。

言っていることわかるかな?

だから、ある程度のところまで
アンドレは「はいはい」と女房役に徹して
オスカルのいうことを聞いているのです。

でもね、オスカルってフェルセンが好きになるじゃないですか

そこで、本来の「アニマ」の面が強くなってくるんですよ。
で、そうなるとアンドレの本来の男らしさが
強まって来る、で
レイプ未遂事件が起きてしまう。

そこで、ふたりの関係は揺さぶられるんですね~。

まぁ、簡単にいうと、そういう要素もあるかな、
って思うのです。

そう、アンドレはね、最初っからイエスマンだったら
オスカルは好きになんかなりませんよ、
それはただの召使だもん。


by sadafusa (2016-10-06 23:12) 

sadafusa

あと、軍隊については
原作はやっぱり納得できなくて
なんで黒い騎士なんか一人で捕まえに行ってるの?
って思うのね、

それは警察の仕事であって軍隊を指揮する
将校のする仕事じゃない!って思うんです。



あと、めちゃくちゃ勉強しているところについては、
ポンパドゥール夫人を読んでいるとき、
彼女はいわゆる貴族じゃなくて、ブルジョワ出身なんだけど、
「寵姫」になるべく、ここで書いたオスカル並みの
猛特訓をさせられて育てられたと聞きます。

ですからね、今も昔も、「英才教育」っていうか
教育ママ、教育パパはいつでもどこでもいたろう、って
考えたのですねぇ。

そして、すんごい秀才はオスカルだけか?っていうと
そうでもなく、

ルイ16世なんか抜群に頭がよくて、
七歳の時から英字新聞読んでた、っていうし、
そう考えると、オスカルみたいな貴族なら
これくらい仕込まれて当然かな、って思うんですよ。

ヴァンサンの『ルイ16世』を読んで思ったのですが、
ルイ16世は身長192センチで
お身の丈も非常に高く、好男子で
178センチのオスカルと非常につり合いがとれてるなぁ
と思いました。

また、狩りとか乗馬もお好きだったようだし。

そう、アントワネットが民衆に嫌われるのは
王さまが王妃一本やりで、常にみんなの眼にさらされていたからです。

ここはオスカルが寵姫になっていれば
話は面白かったかも、ってありえない妄想をして
つい楽しんでしまいます(笑)
by sadafusa (2016-10-06 23:26) 

sadafusa

あ、すみません、長々と。

こんなに熱くて、すばらしい感想を頂けて
本当に光栄の極みです!

そして、書いた私以上によく理解しておられるなぁと
思いました。

そういう深いトークができて本当にうれしいです。

結構、この作品、そうそう誰もが喜んでくれるものじゃないんですよ。それで結構、私自身かなり落ち込んだりもしましたし。

本当にありがとうございました。
by sadafusa (2016-10-06 23:34) 

どま

早々にお返事ありがとうございます!

原作の無理くりさから脳内補完してこんなにも掘り下げていくファンっておそろしい・・・笑


これは私の一般的な「男」についての考えなのですが、
男って、事なかれ主義だから基本求められなければふわ~っとしてるけど、でもすごく「女と男は違うぞ」って思いが強い気がするんです。

アンドレなんかは、オスカルへの兄的な優しさもありつつ、男の独自の考え方の違いをもって常に接しているはずなんですよね。
こいつには叶わないと思いつつも、「いや、おれがいてやってるから」みたいな、ある意味ずるさというか。
だからそれが自分のもでなくなりそうになったときは突然切れる、みたいな。

出していただいたフェルゼンの例でいうと、「女のオスカルはおれだけしか知らない」っていう意識を深層に持っていて、それがアンドレがオスカルに寄り添ってる根拠になってる部分だから、
その領域を侵されるとついつい自分が抑えられなくなってしまうのではないでしょうか。

これsadafusaさんと同じ意見?ちょっと違うかしら?

でもsadafusaさんのアンドレって、すっごく男らしくて「俺は俺」って感じで、わたしの思い描くアンドレそのままなんですけど!(笑)
オスカルはもう全然どんな人かわかっていなかったので、sadafusaさんのいろいろな文章を読んでようやく人となりがつかめてきた感じです。

アンドレの「男」について、アニメの考察のところでも、sadafusaさん書いていらっしゃってなるほどと思ったのが、
オスカルが「男になる!」って意地はり始めて、アンドレが「男がどんなもんかちゃんとわかってないんだぞお前は!」って力で押さえつけるっていう部分。
なるほどな~そういう「男」っぽさありそうだよな~って妙に納得いたしました。

なんにしても、フェルゼンの登場によってね!揺れる二人のバランスっていうね!
偶然なのかなんなのか、そういう心のスイッチの仕掛けみたいなのが、池田先生はうまいんですかねー。

「アニマ」と「アニムス」の考え方については、そういう相互補完的な役割はあったかもしれませんね。
どなたかが(これもsadafusaさん?)、アンドレは両親をうしなって、愛情を表現する相手としてオスカルを両親の代わりにしていた部分があるのでは、と言っていて、そういうお互いに足りない部分がマッチして一緒にいるようなところがありそうですよね。
by どま (2016-10-07 00:01) 

どま

わわ!
続けてコメントいただけてうれしい・・・

やっぱりsadafusaさんの作品には、いろいろ本を読んで、その時代のいろんなかたの人生を考察された上での奥深さがあるなあと思います。
にわか知識ではない硬派な感じというか。
でなければ、二次創作の作品でこんなにも納得させられないと思うんですよね。

軍隊のこととかオスカルの鍛錬とかちゃんと書いてもらえると、
ああ、この子も普通の人間で、周りの子ともバランスをとろうと必死なんだなあ
というのがより浮き彫りになって考えさせられた感じです。

この作品、なぜ心惹かれない方がいるのか私は本当に不思議です。
めちゃめちゃかっこいい、深い作品だと思います。
並みの人には書けない背景の説得力や、それぞれのキャラクターの動かし方が素晴らしいですよ!
ご自身で「自信作」と言われるだけはあります!というか、間違いなく傑作だと思いますよ!

わたしもついつい触発されて、熱く語ってしまいました。
(年代的に、周りにベルばらを語れる人なんていないのです~)
また次作、もしくは、二次創作とは言わずともベルばら考察を書かれるようでしたら本当に楽しみにしております!

あと、デビルマン読んでみようと思いました笑
by どま (2016-10-07 00:16) 

どま

「アニマ」と「アニムス」について読み返して思ったのですが、
オスカルが原作のような「俺様モード」にはいるのは、本当にそういうからくりがありそうですね。

なんかハイ&ローみたいな・・・

やばい、オスカル様ほんとに精神をお病みになっている・・・

そう言う意味で、躁状態(おい)のときはアンドレが女性らしく隠れて見えてないけど、うつ状態のときは逆に自分が精一杯で男らしいアンドレが見えてなかったって言う・・・

そういう事情もありそうですね。

あー・・・語りが止まりません(笑)
by どま (2016-10-07 00:30) 

sadafusa

>こいつには叶わないと思いつつも、「いや、おれがいてやってる>から」みたいな、ある意味ずるさというか。

>だからそれが自分のもでなくなりそうになったときは突然切れ
>る、みたいな。

>「女のオスカルはおれだけしか知らない」

わかるわ~。(笑)

これって原作のアンドレそのものですよね(笑)
わたしね、この原作アンドレが非常にイヤなんですよ。

なんですか、「自分しか知らない」って
ガンダムオタクみたいです。

いやなのね、そういう男(笑)

私、オスカルは原作も好きなの、アニメのほうがもっと好きだけど。だけどね、原作アンドレは知性とか寛大さとか、そういうもの、感じられないんですよね。

だ、か、ら、実はキラいなんです。
しつこく何度も何度もオスカルに迫っていくじゃないですか。
そこらへんのずうずうしさが赦せないっていうか。


だから、私のイメージとは違うので、
思い切って改ざんさせていただきました。

わたしなりの理想のアンドレ像ですね。
巷には原作のアンドレが好きな人がたくさんいるので
そういうわたしの改ざんに赦せない人は多そうです。



あとね、原作のオスカルも、実生活いおいて
あんだけベッドの上で吐血とかしたら、その後始末どうしたの?
とか思うんですよ。

原作どおりだと、「自由・平等・博愛」とか言葉ではきれいなことを言っていても、結局、ベッドの上で正々堂々と血を吐いちゃったりできるんです。

あとね、これはちょっと品が下がる想像で申訳ないんですが、
ふたりで過ごしたあとね、朝になると当然召使が
シーツを替えに来るのね、で、それを見る。
そうすると、秘密はもう秘密じゃないの。
あ~、なんかあったんだな、オスカルさま、
だって黒い髪の毛落ちてるし、、、ってなっちゃうでしょ?

私はわりとそういうこと真剣に考えてしまうタイプなんです。

だからお貴族さまには秘密はない、って思うんです。

もし、どうしても屋敷うちで事を構えるなら、
もうオスカルさまがアンドレの部屋に出向くしかない、と
それぐらい思ってしまう。
アンドレの部屋は誰が掃除してたんだろうね。
でもアンドレは用意周到だから、そういう子をたらしこむのなんか
朝飯前そうな気もする。



たぶん、アニメの人たちはそういうことも
考えていたんじゃないかとも思えたりするんですよね。
だから野外なんですね。納得です。
それなら、本当の秘密になりますから。

だからね、拙作品では、アンドレは何で?っていうくらい
お屋敷うちのことを人に話さないっていうのは
こういう理由があったからなのです。

当時池田理代子さんは、24歳から26歳っていうじゃないですか?やっぱりそこまでは考えられないですよね。ウン。
今みたいに資料が豊富じゃない時代なのに。
やっぱりパイオニアの作品は常に力づよいな、って思います。
どんなに欠点があろうと。





デビルマンはかっこいいです。
でもアニメのデビルマンはかっこよくなく、
漫画のデビルマンだけがかっこいいのです。

ぜひ読んでみてください。


by sadafusa (2016-10-07 00:48) 

どま

意外!
アンドレは原作とはまったく違うつもりでお書きになったんですね!

わたしとしては全然乖離がなかったのでびっくり…
いや、わたしの中のアンドレが、妄想により原作から美化されてるだけなのかも…

だから嫌な感じがしないんでしょうかねぇ…

池田先生はベルばらをお若くして描かれたから、やはりその辺りの勢いで描いた感じがあるんでしょうね。

いろいろ言われてみると確かに…(・・;)
そこまでクールにベルばらを見てらっしゃるのに、こんな素敵な作品が書けるなんて、、、

作品への感想?というかそこから膨らませたわたしの妄想をたくさん語ってしまいすみません。
結構、sadausaさんの思惑と違って、的外れなことばっかり言ってしまったかもしれませんね。

またいろいろな文章楽しみにしています!
by どま (2016-10-07 20:13) 

sadafusa

ありがとうございます~~。



原作のアンドレは読み込んでいくと、
話を描くのに精いっぱいで、
あんまり深い人物造型はできてないのだなぁと
推察することはできます。
要するに、練れてないんですよ。
でも、週刊漫画だったならそうかもなぁと
思います。リプレイできないですから。



でもね、だけどそんな欠点を補って余りあると思うのが
やっぱり7・8巻あたりの絵ですよね。
ほんとにあの絵のアンドレだけで、
もとを取っているというか。

本当に美しい!

私は手がすきなんですが、
あのアンドレの手が口よりも雄弁に
いろんなことを語っているんですよ。

こんなにハンサムだったら、やっぱりすきになるかなぁ~
っていまでも絵を見て思います。

このころの池田先生の絵は、本当に神がかっていて
その後、『オルフェウスの窓』も執筆されていますが、
やっぱり、どういうわけだかベルばらには
及ばないのですねぇ。


閑話休題

今掲載している『月蝕』なんですけど、
だいぶ前に書いたもので、中身なんかすっかり
忘れていて、
「たしか、すっげ~ヤバい話だったようなぁ~」
と思って読み返したんですよ。

でもね、根っこの部分ではまるでベルばらと一緒で
大笑いしてしまいました。

結局、わたしは「愛する」とはどういうことかを
自分が追究したいがために小説を書いてるんだなぁと。


全然的外れなことはおっしゃっていませんよ。
なるほど~っと、私そこまで深く思っていなかったわW
ってある意味すごく感動しましたもん。

こんなふうにコメントを頂けることが
何よりの活力になりますね。


本当にどまさま、励まされました。
ありがとうございます。



by sadafusa (2016-10-07 20:53) 

ド・ブロイ公爵

sadafusa様、初めまして、こんにちは、ド・ブロイ公爵と申します。

歴史関係のサイトを検索していたら、このブログに辿り着きました。
最近のベルばら二次小説の中では、貴女様のお書きになられた「フーガ」、圧倒的な重厚さでした。感激致しました。こういう骨太な二次、久しぶりだったからです。嬉しかったです。

短いコメントですが、更なる重厚な二次、楽しみにしていますよ。




by ド・ブロイ公爵 (2016-12-12 14:51) 

sadafusa

ド・ブロイ公爵さま ごきげんよう。
ここにカキコミいただきまして、光栄の至りでございます。 笑

もう書かない!と思ったのですが、やっぱりね、面白くて
止められませんね。実は今、第二作の終盤を書いております。

これより二年後の話です。少し大人になったオスカルとアンドレ。
わたしは、原作のあらすじを大幅に改ざんしたり、また原作に尾ひれを付けたようなお話は好みません。

原作のティストを残しつつ、新たにリ・クリエイションするのが
sadafusaのやり方です。

楽しみにお待ちください!


by sadafusa (2016-12-12 22:08) 

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